最高裁判所第一小法廷 平成12年(受)135号 判決 2000年9月07日
上告人 沼田貞子
右訴訟代理人弁護士 村上英二
被上告人 長政ナゝ子
土谷ユキ子
野刈眞喜子
右三名訴訟代理人弁護士 橘精三
主文
原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
上告人が原判決別紙定期預金目録記載の定期預金債権を有することを確認する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人村上英二の上告受理申立て理由二について
一 本件は、共同相続人間で遺産に属する定期預金債権の帰属が争われている事案であり、上告人は、被上告人らに対し、上告人が右定期預金債権を有することの確認を求めている。
二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 沼田喜久治(以下「喜久治」という。)は、昭和五五年一二月二二日、自筆証書により、その所有する不動産、株式、預貯金を上告人に遺贈する旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
2 喜久治は、平成三年八月二日に死亡した。その法定相続人は、妻である上告人並びに子である三浦實、被上告人長政ナゝ子、同土谷ユキ子及び同野刈眞喜子の合計五名である。
3 第一審判決別紙遺産目録記載の喜久治の遺産は、本件遺言により上告人に対して遺贈されたものであるが、上告人を含む相続人らは、平成四年一月八日、右遺産につき、本件遺言の趣旨とは異なる内容の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)を成立させた。
4 本件遺言書は右協議の最中に発見され、相続人全員が本件遺言の存在及びその内容を知った。
5 原判決別紙定期預金目録記載の定期預金債権(以下「本件定期預金」という。)も、喜久治の遺産であり、本件遺言により上告人に対して遺贈されたものであるが、右協議の時点では、上告人を含む相続人らにおいて遺産に属すると認識していなかったため、本件遺産分割協議の対象とはされなかった。
6 被上告人らは、本件定期預金が喜久治の遺産であると主張してその遺産分割を求めており、これに対し上告人は、本件定期預金が自己に帰属するものであると主張している。
三 原審は、(一) 本件定期預金は、本件遺言により上告人に対して特定遺贈されたものである、(二) 上告人が、本件遺産分割協議において、本件定期預金について遺贈の放棄をしたものとは認められない、(三) しかし、本件遺産分割協議が有効に成立したことにより、本件遺言はその役割を終えたものと見るのが相当であるから、本件遺言による遺贈の効力はもはや本件定期預金には及ばないとして、上告人の本訴請求を棄却すべきものと判断した。
四 しかしながら、右三(三)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、本件定期預金は、本件遺言により上告人に対して特定遺贈されたものであるところ、本件遺産分割協議の対象とはされておらず、上告人による遺贈の放棄はされなかったというのであるから、他に右遺贈の無効事由についての特段の主張立証のない本件においては、本件定期預金は喜久治の死亡により直ちに上告人に帰属したものというべきであり、本件遺産分割協議の成立は、右遺贈の効力を何ら左右するものではない。
五 以上の次第で、本件遺言による本件定期預金の遺贈の効力を否定して、上告人の本訴請求を棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。前記説示したところによれば、本件定期預金が自己に帰属することの確認を求める上告人の本訴請求は理由があるから、第一審判決を取り消した上、右請求を認容すべきものである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田顯)